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  • Vol.05 世の未来事に仕える。そう意識すると、仕事は自己犠牲ではなくなる。

「こと」を見つめて「もの」を発想する「デザイナーは単に表層的なデザインをすればいいのではなく、使う相手に色や形を説明し、その魅力を伝えなければなりません。だから、デザイナーは上手でなくても、きちんと話しができなくてはいけませんね」と話すのは、canariaのクリエイティブディレクター/アートディレクター、徳田祐司さん。武蔵野美術大学を卒業後、電通に入社。その後、オランダの広告代理店KesselsKramerを経て2007年にcanariaを設立。「もともとビジュアルが好き、デザインが好きでこの業界に入りましたが、代理店に入ったので当たり前なのですが広告ばかり作る日が続き、パッケージやロゴ、エディトリアルやムービーなども手がけてみたいと思って独立しました。電通の頃は広告、いわゆる“伝える”という仕事でしたが、伝える前の商品やコンテンツを“作る”という部分に身を置きたいと感じたんです」と徳田さん。「デザイナーは、物を作る前に物事を整理するという仕事があります。物事の仮説を立てて、計画的に具現化しなければなりません。ですから、社会で起きている事象をつなぎ合わせ、今こんなことが起きているから、このプロジェクトはこうしよう、という発想を持つ必要があります。未来予想や仮説、シナリオをもとに色や形を揃えてパーソナリティを伝え、お客さまのヒューマンコミュニティを作ることが重要であり、この仕事の面白い部分でもあります」

案件の先にある世の中の変化を感じること「タスクと捉えれば、仕事は“やらされている”ことに過ぎませんが、“自分がやる”と決めると姿勢が自ずと変わります。すると、誰と会うべきか、どこに出向くべきかも見えてきます。その結果、仕事への集中力や緊張感も変わってきます。僕自身もデザインで少しでも世の中をよくしたい、それをクライアントと一緒にやることを意識してから時間の使い方がずいぶん変わりましたね」と徳田さん。「canariaでは、飲食から美容、観光、宇宙事業、そして数百年も続く老舗の酒蔵まで幅広いクライアントの仕事を担当しています。しかし、パッケージやロゴマーク、Webサイトのデザインを納品するという案件レベルの話ではなく、世の中が向かう方向や、人が生きること、喜び、QOLなど、デザイナー自身が“世の中の変化”を感じることが大切だと考えています。その上で、世の中に対して自分は何ができるかという一つの目標を掲げる必要があるのだと思います」

腑に落ちる本質を整理してデザインする「少し前にウィッグのリブランディングをやりました。抗がん剤治療で髪の毛がなくなると、患者さんには医療用ウィッグが手渡されます。ウィッグは体の一部なので、頭の形や髪質、長さなど、一人ひとり違うものなのですが、“あなたは患者だからこれで我慢してください”と、ほぼ諦められた領域だったんです。これに対し、ウィッグを着けることを楽しみ、ウィッグを着けることが後ろめたくない社会を作りたいというクライアントの社長の思いに共感して担当することを決めました」医療用だけでなく、ファッション用としても販売することから、両者にある共通の心理 “なりたい自分になれる”というコンセプトを思いつき、なりたい自分になれたときの“ときめき”をロゴマークにしたそう。「デザイナーは、デザインのためにデザインするのではなく、自分の中に腑に落ちる本質を整理して、ストーリーを考えることが大切だと思います」

本質的に分解してストーリーで再構築する「アフリカの密猟者たちを国が雇い、自然公園のガイドに起用したという話がありますが、あれは動物の生態系に詳しい密猟者の知識を活かそうとした発想の転換です。社会問題への意識から生まれたアイデアですが、本質を捉え、発想を変えただけで見方が180度変わってきます。最適な答えを導くためには、まずは物事を本質的に理解して分解し、ストーリーで新たに再構築することが重要です。canariaにはGCH(Gross Canarian Happiness=カナリア総幸福量)という社是があります。これは、僕たちはクライアントのために一生懸命に仕事をする。クライアントは世の中のために一生懸命に仕事をする。クライアントが一生懸命仕事をするのは自分が幸せになるため、という喜びの分かち合いや学びを最上位にした考え方で、仕事をする上ではとても重要なことです。目標を共有できる人が集まって組織をつくり、それらに自発的、能動的に関与していくこと。仕事は“仕える事”と書きますが、タスクではなく、世の未来事に仕える。そう思うようになれば、仕事は自己犠牲ではなくなるのではないでしょうか」

シゴトジウムトークイベント登壇決定! 10月23日(水)にWeWork乃木坂で開催されるトークイベント「シゴトジウム(Vol.05)」は、徳田さんにご登壇いただきます。参加希望の方はイベントフォームから申し込みください。

徳田 祐司

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。電通、KesselsKramer(オランダ)を経て2007年、canariaを設立。現在に至る。独自にpeace design project 'retired weapons'を展開。日本グラフィックデザイン協会会員。日本パッケージデザイン協会会員

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