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- Vol.09 ソロワークで自立しながら、必要に応じてネットワーキングできるのが都市の魅力。
建物や空間を通してメッセージを表現する可能性「僕は典型的な文系なんです。スポーツもダメ、コミュニケーション能力もゼロ。得意技は人見知りなんですよ」と話すのは、都市をテーマにした雑誌「MEZZANINE」編集長で、株式会社アーキネティクス代表取締役の吹田良平さん。現在は都市開発プランナーとして、大手デベロッパーによる都市開発のコンセプト策定を手掛けているが、学生のころは物書きを目指していたという。「当時は、物書きの花形といえばコピーライターで、大手広告代理店の採用試験を受けましたが連戦連敗。はじめから都市計画に興味があった訳ではないのですが、地方出身というのもあり、都市に対する憧れは人一倍強かったですね。印刷物は二次元ですが、建物や空間は三次元なので、“場”を通して何かを表現していくのは面白そうだなと思い、浜野総合研究所の門を叩きました」
「5時間集中して5時間休む」仕事術浜野総合研究所に入社後、2003年に独立。都市をテーマとした“プレイスメイキング”と“プリントメイキング”を行う株式会社アーキネティクスを設立した吹田さん。独立しても仕事の99%はコミッションワークだそう。「僕の仕事はクライアントが抱える課題やニーズに対して最適解を提供することです。もう30年近くやってきましたが、発注主が必要としているものを粛々と淡々と提供することに、僕は喜びを感じています」と話す。「あまり“仕事観”というものはないのですが、子供も大きくなったので、最近はわがままを言わせてもらい、オフィスをもう一つ借りて、そこで寝泊りしながら仕事をしています。昼も夜も関係ないというか、5時間寝て5時間働くというサイクルです。朝の6時に仕事が終われば、朝陽を見ながらビールを飲んで、昼まで5時間寝ます。寝ながら考えて、仕事をしながら寝ているような感じです」と笑う。
ワークとライフはインテグレートする時代「最近はワークライフバランスとか叫ばれていますが、就労と私事を分けている場合じゃないんですよ。もちろん、すべての就労者には該当しないと思いますが、僕らのような知識サービスを産み出してなんぼの業種の場合、労働行為自体に生き甲斐を見出す傾向があります。ですので就労と私事が不可分になりがちです。つまり、プライベートとワークはインテグレートしてしかるべきだと思います。例えば、中国でも朝9時から夜9時まで12時間働いて、週6日勤務するという“996”族が、革新的産業分野で経済成長を押し上げています。日本では働き方改革が喧しいですが、そのくらい働かないと見えてこないこともあるのではないでしょうか」と話す。
アンチコミュニティ感覚。
専門分野の異なる人との他流試合こそ、都市の醍醐味これからの時代、都市の定義としては、ますます自立しながら連携できることが重要になるという。「基軸はソロでの思索や探求行為ですが、必要に応じてネットワークできるのが都市の醍醐味です。一時、インターネットが物理的距離の問題から我々を解放してくれるという幻想を持ちましたが、結果としてそんなことは起こりませんでした。魅力的な人や情報は前にも増して、一定の場所に集積しつつあります。そこでは、まだ成文化されていない暗黙知が交換されます。また、その時の相手の表情やしぐさ、ダイアローグのノリやインプロビゼーションがたまに両者に飛躍的な相互作用をもたらします。インターネットは興味関心を同じくする人たちに向いたコミュニケーション手段。一方、思わず膝を打つ相互作用は属性や専門分野が異なる人どうしが交わった時に起こることが多いので、そいう場合は、やはりと言うかますます、リアルな対面が重要になってきます。そして、その格好の舞台が都市なんです」
パンクな“プレイスメーカー&プリントメーカー”プレイスメーカーであり、プリントメーカーでもある吹田さん。2017年には都市をテーマにした雑誌「MEZZANINE」を創刊したという。「雑誌の編集方針は“Urban Challenge for Urban Change”です。知識や経済のエコシステムのサンクチュアリである都市は、時代とともにどんどん更新していかなければならない。ですから、都市更新の創造的な試行錯誤を世界中から見つけてきて、紙に定着させ、人様にお届けするのが我々の雑誌です。昨今、データ駆動型のスマートシティがブームとなっています。そこで実現するのは、自律走行や遠隔医療、遠隔教育、防犯防災にエネルギーマネジメント。確かにそれは痒いところに手が届く便利で弱者に優しい社会です。でも僕にはそれは賢い(スマート)社会には全く思えません。そこで賢いのはテクノロジーやそれを開発運用した人であって、僕ら街の住民ではない。本当の賢いスマートシティなら、街の住民が賢くなる、つまり創造的に暮らす術をテクノロジーが指南、実現するものでないと、スマートシティとは言えないのではないでしょうか。生活を便利に、人間の労力を軽減することも大切でしょうけれども、逆に、人に新たな行動を促すテクノロジーこそが大事だと思うんです。人間は、したいことを実行に移している時が、一番幸福感を感じるものですからね。そんな視点を持ちながら、これからも都市に対する思いの丈を、“プレイスメーカー&プリントメーカー”として表現していきたいです」