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- SPECIAL INTERVIEW
- Vol.08 僕たちも百の仕事をしよう。
所属や役職なんて、今やどうでもいい「僕はいくつか会社を経営しているから社長や会長というポジションだけど、結局は何をやっているかが大事なんじゃないの?」と話すのは、流石創造集団株式会社 C.E.O 黒﨑 輝男さん。「どこの会社でどこに所属して、どんなポジションでやっているっていう話は、昔の何々藩の下級武士で、どんなポジションかといっている封建時代と全く変わらない。“どこの会社のどこのポジション”というのが、そもそもおかしい。僕はそんなことを気にしないで、色々なブランドを立ち上げてきた」と黒﨑さん。
お金は価値を交換するメディアでしかない「最近はみんな“自由に働きたい”というけど、自由って“自らに由る”って書くように、自分で考え、行動して、スケジュールも立てなければならないわけ。それはすごく難しく、責任もリスクもあるってこと。事業が成功すれば多少のお金は得られるから、ある意味では自由になれる。でも、勘違いしちゃいけないのが、お金は所詮メディアに過ぎないということ。たとえば、ヨーロッパに行く飛行機のチケットが20万円、一方、リビングに置く家具が20万円だとする。金額は同じでも価値の整合性は全くないわけですよね。だから、その価値をつなぎ、交換するメディアとしてお金が存在していると考えるべきなんです」と話す。
夢や思いつきではなく、世の中を見つめることオリジナルの家具やインテリア雑貨を取り扱うインテリアショップ「IDEE」を立ち上げたほか、「Farmers Market @UNU」「COMMUNE 246」「みどり荘」といった、さまざまな事業を手がけてきた黒﨑さんだが、そのすべてはマーケティングに基づいているという。「自分の夢や思いつきでやっているわけじゃないんです。日本の社会を見て、どう変わっているかを見る。その世の中に対して自分はどう思うかなんですよ。まず、マーケティングがあり、そこにイノベーティブがあるから、ビジョンが生まれるんです。事業を考えるときに僕が大事にしているのは、“ランダム”“フリーダム”“ウィズダム”の3つ。ランダムにマーケットを見つめ、フリーダムを持ってきて、ウィズダムを重ねるわけですね。6年前にアメリカの出版社と英文のポートランドガイドを作ったんです。日本のガイドブックって“旅館”とか“ホステル”というように名詞でカテゴリを分類していますが、僕らは“Eat”“Sleep”というように動詞で分類したんです。今はレストラン一つとっても、和食、中華というような線引きが明確ではなくなり“チャイニーズアメリカン”というように色々なものが混ざってきています。料理人だって毎日料理だけ作るのではなく、1週間のうちの2日間は農業をやって食材を育て、残りの4日間は料理を作ったり、メニューや広報を考えたり、一人がトータルでやる時代になってきています」
さあ、ハンドレットワークスの時代へ一人の人間が幅広い領域の仕事を担うという発想は、明治維新の「百姓」に通じているそう。「百姓と聞くと、僕らは農民というイメージがあるけど、実は百の仕事をしていたんです。米を作り、野菜を育て、鶏を飼い、味噌や醤油、酒を作り、工芸品を作り、大工仕事をやり、寺子屋で読み書きや計算を教えていた。当時、日本の識字率というのは世界で一番高かったんですね。色んな仕事が有機的につながり、それだけ吸収できることも多かった。でも西洋化が進み、大学では一つの学問を追求するようになった。その結果、却って知力が落ちたと思うんです。今のように社会が大きく変化していくとき、日本の大企業は瞬時に動けない。自由度があり、イノベーティブなことをまとめていく能力が足りないんです」と黒﨑さん。明治以前は4万、5万もの仕事があったそう。「江戸時代は町内に“羅宇屋”というキセルの中を掃除する人がいましたし、羅宇竹という竹を育てている農家がいて、卸問屋があり、火皿を叩いて作る人がいた。今なら1社で完結しますが、当時はキセル1本作るだけでも10くらいの職種が有機的に繋がっていました。これからの時代、生業はこれだけど、志はこれ、みたいなことでいいと思います。幾らか貰える会社が複数かあって、合計である程度持っていればいい。現代流の百姓、言うなれば“ハンドレットワークス”で百の仕事をしていくほうが面白いし、よっぽど健康的だと思いますね」
1949年東京生まれ。「IDEE」創始者。オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に『生活の探求』をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。 2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した『世田谷ものづくり学校(IID)』内に、新しい学びの場『スクーリング・パッド/自由大学』を開校。Farmers Marketのコンセプト立案/運営の他、“都市をキュレーションする”をテーマに 仕事や学び情報、食が入り交じる期間限定の解放区「COMMUNE 2nd」を表参道で展開中。2017年ビジネスと政治の拠点永田町に, 『みどり荘』(働き方の可能性を追求する共有型ワークスペース)を開設。小松市滝が原町の古民家をリノベーションし、そこを拠点に新たな視点で農的生活を探求するプロジェクトが進行中。