まるで、足のつかないプールで泳ぐような感覚「実家が自営業で織物の仕事をしていたので、私自身も会社に勤めるというのはピンと来なかったし、ずっとフリーランスのデザイナーになりたいと思っていました」と話すのはプロダクトデザイナーの柴田文江さん。「フリーランスになるには、親を説得しなければならないと考えて、まずは大手企業である東芝のデザインセンターに入りました。当時、ソニーや日立などのメーカーは制服があってそれを着るのが嫌だったので、東芝にしました」と笑う。「とても素晴らしい会社で色々と教育していただき、3年くらい勤めました。独立したときは、もっと自由にできると思っていましたが実際は真逆でした。足のつかないプールで泳いでいる感じで、やっていること自体は変わらないのですが底がないような不安は常にありましたね」

柴田 文江さんインタビュー01

いっぱい働くことがカッコいいと思っていた「今でこそ、仕事が私を自由にしていると感じますが、昔は自由だと感じることはなかったですし、とにかく必死になって働いていました。無名のデザイナーでしたから、来た仕事は全部やらないといけないので1年間に3日くらいしか休みがないような時期もありました。むしろ、いっぱい働くことがカッコいいと思っていたくらいです」と振り返る。「もちろん、実績のない若いときに“私は自由にやりたい”といっても難しいでしょうが、あの当時は誰でもいいからはやく安くやってくれる人としての依頼ばかりだったので、忙しかったのだと思います。私のデザインを知ってそれを期待して依頼された仕事ではなかったのかもしれませんね」と柴田さん。

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丁寧に暮らしているから、いい仕事ができる打ち合わせの予定もなく、誰も居ない土日の静かな事務所で時間を過ごすことが好きだという柴田さん。「2018年9月にここに移転してきたんですけど、緑が見える場所で働くとか、オフィスの雰囲気とか家具とか、楽しい仲間が居るとか、そういう物理的なことってすごく大切だと思うんです。私自身、会社に勤めていた頃は、日曜日の夜になると憂鬱な気持ちになっていたから、働きやすい環境をつくることも大事だと思いますね。それでもスタッフは日曜日の夜にブルーな気持ちなっているかもしれないけれど」と笑う。デザイン会社というと残業が多いイメージがあるが、Design Studio Sは2年前から「水曜日定時帰り」を取り入れたそう。「本当は毎日定時で返してあげたいけど、それはなかなか難しいので、水曜日は定時に帰ることが仕事だと思って帰ってもらうようにしています。プロダクトデザインのプロジェクトは2年、3年と期間が長いんです。それを同時に何本も走らせているので、途中で息切れしないようにしなければなりません。だからメリハリをつけて土日はしっかりと休み、毎日を丁寧に暮らし、いいパフォーマンスを出すことのほうが重要なんだと思います」

柴田 文江さんインタビュー02

時代にあわせて、求められるものを作り続ける「どんな仕事でも条件や状況が厳しいことのほうが多いですよね。ピンチは誰がやってもピンチですから、アイデアでチャンスに変えられるかどうかですね。仕事を楽しめている人は、そこが上手なんだと思います。乗り越えた経験が自分を支えてくれる力になります」と自身の経験を振り返る。「これからは、デザイン事務所も新しい働き方を取り入れて、今の時代にあった組織に変わってゆくと思います。一般的にはボスの下にスタッフが居るアトリエスタイルが多いように思いますが新しく事務所をつくった知人のところはフラットに並んでいるそうです。誰かの指示を受けて仕事をするのではなく、一人ひとりがプロジェクトに責任を持つフォメーションなのでしょうね。ものづくりを取り巻く状況はますます厳しくなりますが、新しい働き方が生み出すクリエーションがその解決策となることを期待しつつ、私自身も変化しながら知恵を絞っていこうと思っています」

柴田 文江さん作品

シゴトジウムトークイベント登壇決定!11月21日(木)にWeWork乃木坂で開催されるトークイベント「シゴトジウム(Vol.06)」は、柴田さんにご登壇いただきます。参加希望の方はイベントフォームから申し込みください。

柴田 文江

デザインスタジオエス 代表
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、大手家電メーカーを経てDesign Studio S設立。 エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションなど、国内外のメーカーとのプロジェクトを進行中。iF金賞(ドイツ)、red dot design award、毎日デザイン賞、Gマーク金賞、アジアデザイン賞大賞・文化特別賞・金賞などの受賞歴がある。武蔵野美術大学教授、2018-2019年度グッドデザイン賞審査委員長を務める。著書『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ』。

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