自分たちが主体のプロジェクトを考え、発信する意味「仕事って誰かが喜ぶことを考え、作ることだと思います。だから、僕らはコンピューターやAIにはできないことをしなければならない。記憶する倉庫ではなく、モノを作る工場でなければならないんです」と話すのは、オレンジ・アンド・パートナーズでMEMU EARTH HOTELの運営を手がけている佐藤 剛史さん。「MEMU」は、ホテルのある北海道広尾郡大樹町芽武(めむ)が由来だ。「通常のクライアントワークではなく、自分たちで企画し、自分たちで事業化していくオレンジ・アンド・パートナーズ発信のプロジェクトなんです」

手触りのある感動や喜びを実感できる仕事を現在、月に1回は北海道に行っているという佐藤さん。「地方のプロジェクトで重要なのは人間関係づくり、信頼づくりです。東京の人間がローカルで新しいことをはじめると反発があります。僕たちはホテルを作るだけでなく運営も行っているので、たとえば、スタッフは地元の人にお願いしたいんです。ですから、なるべく地元の人に会いに行き、一緒にご飯を食べたりして、人づてに紹介してもらうこともあります」と話す。もともとは大手印刷会社のプランナーとして働いていた佐藤さんだが、マスに向けた空中戦のプロモーションではなく、手触りのある感動や人が喜ぶ実感が欲しかった、と転職を決めたのだという。「今は東京と北海道の2拠点居住ですね。金曜日まで東京で働き、土曜の朝からは北海道。1週間くらい滞在することもあるので、実はリフレッシュもできるんですよ」と笑う。

経済的に豊かでなくても、本当の豊かさがある「北海道広尾郡大樹町は、僕が知っている限りでは国内で最も原始的に近い場所なんじゃないかと思います。野菜を作り、牛を育てるような生活。無駄がないし、余分がないんです。上下関係なくフラットに繋がり、足りないものをお互いに補い合うような感じです」と佐藤さん。以前、ホテルで畑を作りたいと地元の農家さんに相談したところ、土を分けてくれたという。「農家さんにとって畑の土は門外不出の秘伝のタレのようなもの。今はまだ何も返せていないんですが、子供や孫の代に返ってくればそれでいいと言ってくださったんです。
産業が盛んではない町なので経済的にはあまり豊かではないかもしれませんが、お金ではない本質的な豊かさを感じられる場所です」

資本主義の真ん中にある、都心的な暮らしその一方、都会的な暮らしは人間がコントロールしやすい仕組みの中にあると話す。「人間はもともと自由に生きてきたわけですが、やがて畑を作り、家畜を育て、建物を作り、村や町、都市を作りました。組織ができると上下関係が生まれ、ヒエラルキーができ、その先に技術が生まれ、細分化されてきました。今の東京はまさにその集大成だと思います。都市での豊かさは、家が駅から近い、家が大きい、ブランド品や家具に囲まれているといった資本主義の真ん中に存在し、社会的ステータスになっています。大量生産・大量消費を繰り返す社会で自分はどこにいるのか、というのが豊かさの目印になっています」と話す。

人間が見失った本質的な豊かさを追求するオレンジ・アンド・パートナーズでの仕事の醍醐味について聞くと、佐藤からはこんな答えが返ってきた。「僕は何かを生み出せる人間ではありませんが、今の仕事には自分が中心となる場所とブランドがあります。たくさんの人を繋ぎ、さまざまな場所を繋ぐことで、価値を見出し、時代とともに省略されていった本質的な豊かさや幸せを発掘し、伝えていきたいと思っています」

佐藤 剛史

1987年愛知県生まれ。大手印刷会社を経て、2015年オレンジ・アンド・パートナーズに入社。
地域ブランディングや企業プロモーションを手がけながら、2016年夏にMEMU EARTH HOTELのトライアルを実施。2017年11月には会社を設立し、2018年11月本格オープン。現在はホテルプロデューサーとして東京と十勝を行き来している。「地域をつなぐメディア型のホテル」を目指し、今後は、行政・大学・生産者など、様々な人たちを巻き込みながら、地域に溶け込む企画を展開予定。

MEMU EARTH HOTEL(北海道広尾郡)  http://memu.earthhotel.jp

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